てきちゃん漂流日記

サイキック寿司屋

寿司屋の思念体

朝、最寄り駅まで歩いていると、横からカップルが腕を組んで現れた。そのまま僕の前を歩いている。女性は黒いパーカーを羽織っているが、よく見るとフードにうさ耳が付いている。それも30cmぐらいの長さの。フードをかぶったら、ピンと真っ直ぐになるのだろうかと不思議に思った。

 

家から職場である寿司屋まで、片道1時間半もかかる。先週、くしゃみで肋骨を折ってしまったため、満員電車で患部を押されると機嫌が悪くなる。

 

入社して4ヶ月半、愚痴が溢れるように出てくる。こんなに炎上するものか、こりゃどうしたものかと思うが、新入社員の僕は黙って見ているしかない。最近は、僕の役割は毎日淡々と仕事をすることであり、余計な心配をしてはならぬと思い始め、もはや他人事のように横目で見ている。自分の担当業務だけ手堅く固めて巻き添えを食らわないようにしている。給料が割と良い、職場の皆さんはフレンドリー、自分の能力をフルに使ってギリギリできそうな難易度だ。まあ続けてみようかと、ヘッドギアを通じて思念と祈りで、空中で白い軍艦に海苔を巻いたりする。

 

業務内容は、まあ難しい。正直なところ、それなりに経験のあった僕が入社していなかったら、この寿司屋は今頃閉店していたのではないかと思われる。コンピュータ上で様々なパラメータを観察・調整し、正しい寿司の形態を生み出すのが任された仕事であるが、ほんの僅かな数値の違いでテトラポットみたいな巻き寿司ができてしまう。違和感を持てるかどうかに全てがかかっているし、そのためには、各パラメータをいじると何が起きるかを知識と経験から熟知しなければならない。マニュアルゴリゴリの仕事内容と思って入社したが、意外と暗黙知が大切だったりして、そこに楽しさを感じる。

 

家に帰って、ベッドの上でうにゃうにゃと考えて、でたらめな短歌を作ったりする。自分の頭で何かを作りたくなる。目をつぶって、行きの電車の窓から見える風景を、動画として思い出そうとしたりするが、数枚の画像がパラパラ漫画のように粗い精度で出力されるに留まる。

今朝、ニュースを見ていたら、動画を生成するAIの話題になり、こりゃ負けたかもしれんなあと少し悲しくなった。